「記念にDVDが欲しい」「YouTubeにアップしてほしい」「結婚したくなった」「全米が…とまではいかないが全来賓が『え、このタイミングでこのアグレッシブなムービー?』と意表をつかれた」などとそこそこ好評価を頂いた結婚式ムービーです。

データ

制作・上映日時

2012/10 – 2012/11

役割

  • シナリオ原案
  • 撮影(一人称視点と病院内のシーンを除く)
  • 監督
  • 編集

使用機材

  • OLYMPUS OM-D E-M5
  • Leica DG SUMMILUX 25mm F1.4
  • ZUIKO DIGITAL ED 50mm F2.0 Macro
  • MacBook Air (13-inch, Mid 2011)
  • Final Cut Pro
  • Motion
  • Aperture
  • Photoshop

スクリーンショット

動画自体は残念ながらネット非公開ですが、スクリーンショットの公開許可は得ておりますので、ここに掲載します。
画像クリックで拡大できます。

依頼の経緯

「そろそろアラサーだし、将来のことも真剣に考えないとなぁ」と忸怩たる想いで、こよりを用いたくしゃみ連続発射記録更新達成などを日々の生きがいとして過ごしていたところ、新郎より話を持ちかけられました。すでに式の本番まで3週間を切っており、本格的に制作するのであれば一刻の猶予もないといった状況でした。

「メインのプロフィールムービーではなく、サブとしての、ちょっとしたものを……」という、相手の心理的負担を最小限にすることを意図しているようなセールス・テクニックの片鱗を覗かせつつ話を切り出した新郎でしたが、よく耳を傾けるうちに、パロディが随所に仕込まれていて笑いを誘い、かつ、ご両親に向けての手紙朗読の直前という失敗の許されない重要なタイミングであるため、インプレッシブでマグニフィセントなイメージをもたらすものを求めているように僕には見受けられ、いやいやそれは動画制作未経験である僕には無理でしょう、と断りたくなるような内容でした(もちろん冗談半分でのトークだとは理解していましたが……)。

しかし、お互いに大のミスチルファンであるということも手伝って、どこか胸腺に触れるところがあったのだと思いますが、冗談を真に受けるようなイメージを頭に思い浮かべつつ、依頼を受諾しました(人はこれを安請け合いと言う)。

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制作の苦労

動画撮影も編集も、まったくといっていいほど経験がなかった僕がまず何をしたかというと、その翌日に動画編集アプリケーションのFinal Cut Pro Xを購入(Webで購入してすぐに使える便利な時代です)。そして本屋へ行き、動画撮影・編集の参考書を数冊購入。カメラを入念にメンテナンス。夕飯はカツカレー。すべての下準備を終え、これでもう終わったも同然、といった気分に浸り、この後経験するであろう困難から目を逸らしました(ようするに現実逃避)。

シナリオを練り、打ち合わせで意見の擦り合わせを行いつつ、撮影・編集の勉強をするというハードワークな日々の合間を縫って少しずつ撮影も開始していくことになるのですが、度重なる時間的不都合、天候の悪化などによって、肝心の撮影は思うようにいきませんでした。勉強も兼ねたほとんど盗撮に近い仮撮影……。仮素材による暫定的な編集作業……。なかなか得られない本番素材……。不安と焦燥……。積み重なる栄養ドリンクの空ビン……。カツカレーによる服のシミ……。まさにプロジェクトX。むしろこの危機的状況を誰かが撮影してくれれば上質なドキュメンタリーになるのではないか、という卑しい思いを抱えたまま、残酷にも時間は過ぎていきました。

それでも、式の本番3日前になんとかクランクアップ。終わった……。いや終わってない、これからだ……と意識を朦朧とさせながら怒濤の編集作業を開始。「たぶん今回の新郎新婦より結婚相手的なサポーターを必要としている人が、いま! ここにいます! ヘルプ!」という頭の中の救いを求める声を振り切るため、何度ゼクシィの角で頭を叩いて気合いを入れようと考えたか知れません。

いろいろ誇張しすぎて一体何の文章を書いているのかよくわからなくなってきましたが、こうした謎テンションで締切ぎりぎりまで作業を続け、なんとか完成させることができました。関係者による念入りなチェックも経て、「これで大丈夫だろう」と思えた瞬間には、一気に全身を脱力感が襲い、「パトラッシュ……僕もう疲れたよ……披露宴は……欠席してもいいかな……」と限界を迎えたネロの心境を誰よりも理解している神秘的な精神状態だったはずです。

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披露宴本番

披露宴も後半になり、宴もたけなわといったところで司会進行の案内があり、会場が暗くなり、ようやくのお披露目となりました。式中からそれまで何度もシミュレーションしていたので狙い通りの反応といえるところもありましたが、特に女性からは意外なカットで声が上がることも多く、今後の参考になるなあ、女心って難しいなあ、などと考えながら僕は周囲を見回していました。最後のシーンが終わり、拍手が巻き起こったときに、ああ母さん、僕、やっと人の役に立てたよ、今まで生きててよかったよ、と深く感動しました。……いや、どうだっただろう。まあいいや。(適当)

その後、行われた2次会では、結婚プランナーの方が、映像を収録したDVDを記念と参考に持って帰りたいと請願なさったらしく、リクエストがありながら再度上映はされなかったとのことですが、総じて好意的な評価を頂いたと新郎より伝えられました(なぜ伝聞なのかというと、非コミュであるところの僕は2次会には出席せずに帰宅したからです)。

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コンセプトについて

これだけ経緯について長々と書いておきながらコンセプトについてまったく触れていませんでした。どうでもいいことはいくらでも書けるんですが……。まじめな内容について書くのはなかなか照れくさいですね。

ご両親への感謝を表明する手紙朗読の前というタイミングなので、動画のテーマもそれにつながるものにしたいと当初より伝えられていました。その点については何度も打ち合わせをし、構成の変更も経て、慎重に作業を進めましたが、最後まで争点となる部分でもありました。

まず、僕が考えたのは、お二人が式中、立派な晴れ姿をご両親に披露し、将来への希望に満ちた展望を想起させることが、すでに充分な親孝行であり、そして多くの感謝の言葉や態度に匹敵しうるものだろうということです。そのうえで、手紙の朗読という直接的な表現の段階に至るならば、今回制作する動画で特に描くべきことは何だろうと悩みました。結婚式でよく見受けられる、過去の写真とそれに対するコメントを並べていくような動画であれば、確かに外すことはないかもしれません。目の前の息子・娘の晴れ姿と、今までの姿を、思い出の家族写真をもって比較することは、ご両親にもきっと訴えかけるはずですし、映像的にこだわる必然性は少なくなります。しかし、一言でいってしまえば、どこかで見たような映像を作りたくないと初心者なりにも考えたことから、頭の中のイメージは散々捏ねくり回され、苦心したあげく、ようやく一つの結論に至ったのです。つまり、ご両親が知らないお二人の姿を……普段は絶対に見られないような、二人がそれぞれ一人でいるときの姿、そして二人だけで一緒に過ごしているときの姿を、ドキュメンタリー映像のようなものとして作ることができれば、ぴったりとはまるのではないか、と。

当たり前ですが、結婚生活は楽しいことばかりではありません。生きていくための糧を得るために必要な日々の仕事などの活動が多忙であれば、それが元は単なる手段だったとしても、本当に大事なことをいつしか忘れてしまいそうになったり、軽視してしまいそうになったりする。それでも、決して完全に忘れることはなく、いつだって心に留めていて、きっかけがあればすぐに思い起こせる。また前に進んでいける。そんな心理描写を表現したいと思いました(なんという意欲作……)。二人の仕事風景、共同作業としての結婚式の準備、そして写真を撮り合っている映像をリンクさせることで、ご両親も歩んできたであろう道を二人がまた歩みだそうとしており、その過程がきっとまた素敵な思い出に変わっていく、という構成的な意図も込めています。初期の撮影の段階では、正直に言って、ここまで書いてきたようなコンセプトはまだ固まっておらず、手探り状態で作業していましたが、当初より前向きな映像になるように考慮しながら撮影していました。新郎新婦のお二人ともがお世辞ではなく魅力的な人物だったので、歩きながら話しているカットだけを見てもとても様になっていて、コンセプトなんかなくてもそれだけで充分絵になるんじゃないか、と途中で何度も思いましたが……。

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制作を終えて

初めての本格的な動画制作であり、式の重要な局面を飾るという役割を託されていながらも、時間に余裕はなく、技術的な課題も実に多かったので、見返してみると悔いが残る箇所がまったくないとは言えませんが、この限られたリソースの中ではこれ以上のものはどうやってもできなかったのではないか、むしろなぜこれほどのものが当時の自分に制作できたのか理解不能でさえある、というような不思議で、本当に心に残る作品となりました。崖っぷちまで追いつめられて自分の秘められた力が最大限に発揮された、などの非科学的現象によるものではないことは確かです。協力してくださった方々には本当に感謝の気持ちで一杯です。

ちなみに、完全に余談ですが、本当に心に残る作品である理由がもう一つあります。披露宴のお色直しの最中、僕は隣に座っていた素敵ガールに冗談で、新郎新婦の席に座って写真を撮りましょうと話を持ちかけたところ「は? なんで?」とほぼ予想通りのリアクションを頂きまして、完全に拒否された形になり、こちらもほぼ予想通りに、軽く心が折れています。ほぼ予想通りって、とんだ自傷行為まがいや! ……でも大丈夫、こんなに人の役に立てたんだから(と言い聞かせながら、式中、誰よりも心で泣いた)。

とまあ、僕の個人的な傷心エピソードは置いておいて……。最後に、このような素敵な機会を与えてくださった新郎新婦のお二人には心より感謝を申し上げたいと思います。本当に楽しかったです。ありがとうございました。

どうぞ末永くお幸せに!

bear